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考える言葉

有無相通

2021年03月24日

今回は、"有無相通"という言葉について考えてみたい。

 "有無相通(うむそうつう)"は、『現代語訳 論語と算盤』(渋沢栄一、守屋淳 訳)を読み直しているときに出逢った言葉である。

 その言葉の意味は、「有無相通ずる」。つまり「あるものとないものを、お互いに融通し合って便宜をはかること」である。このことは、数千年前から理解されてきた経済上の原則であり、この大原則に反しては経済の発展など思い描くことなどできないのだという。

 ご存じのように、渋沢栄一といえば、「日本資本主義の父」と呼ばれた人である。その彼が生涯をかけて追い続けた理念が「道徳経済合一」であり、その考え方のベースとなるのが"有無相通"であり、それを具体的に説いたのが『論語と算盤』だったのではないだろうか。

 実は、「道徳経済合一説」も道徳の側からみるか、経済の側から見るかで、それぞれ異なった主張が出てくるという。

 第一は、道徳を表にした場合の「道徳経済合一説」の見方である。これを「道徳=経済説」と呼び、「道徳なくして経済なし」ということであろう。

 経済、経済と言って不正なことをやって道徳に反すれば、やがて経済が破綻してしまう。その意味での道徳なくして経済なしなのである。つまり、健全さを重視した考え方で、「武士は食わねど高楊枝」的な視点がある。

 そして、第二は、経済を表にした場合の「道徳経済合一説」の見方である。これを「経済=道徳説」と呼び、活力を重視した考え方である。。第一とは逆に、「経済なくして道徳なし」ということである。「衣食足りで礼節を知る」ということだろうか・・・。

 私たち日本人は、『論語と算盤』つまり、道徳と経済のバランスの大切さについて、身をもって体験してきたと思う。

 敗戦後の貧困から立ち上がるため、経済を最優先した政策により高度の経済成長を遂げたが、置き去りにした道徳により、90年代初頭にバブル崩壊の憂き目にあって今日に至っている。

 経営計画を策定するお手伝いをしているので分かるが、このところ多くの経営者が算盤勘定だけではなく、道徳・論語の重要性を再認識して、理念・目的を真剣に考え、経営の舵取りをするようになってきている。

 今年から始まった、渋沢栄一を主人公にした、NHKの大河ドラマ『青天を衝け』は、まさに時代の機を見た企画だといえよう。

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